個人事業主は、事業のために支払った費用を経費にすることができますが、支出の種類や用途によっては経費として認められないこともあるので注意が必要です。
所得税を少しでも節税するためには経費の取扱いが重要となりますので、今回は経費にできる支出の範囲と、スーツ代を経費計上する際のポイントを解説します。
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個人事業主が経費できる支出の範囲
所得税や住民税は、売上から必要経費を差し引いた利益に対して課される税金であることから、利益の額を圧縮する分だけ支払う税金を抑えることができます。
必要経費とは
必要経費に該当する支出は、下記のいずれかに該当するものをいいます。
<必要経費として計上できるもの>
- 総収入金額に係る売上原価
- 総収入金額を得るために直接要した費用の額
- 1月1日から12月31日までに生じた販売費、一般管理費および業務について生じた費用の額
(償却費以外の費用については、12月31日現在で債務の確定しているものに限定)
所得税を計算するためには所得金額を計算しなければならず、所得金額の計算方法は所得区分によって異なります。
所得区分は収入を得る方法によって10種類に分類されており、不動産所得と事業所得、公的年金等に係るものを除く雑所得および山林所得は、その年分の総収入金額から必要経費を差し引いて所得金額を算出します。
経費として計上する額は、現実に支払った金額ではなく、その年において支払うべき債務の確定した金額です。
税務調査では経費の可否判定だけでなく、経費の計上時期もチェックしますので、経費にする年分の誤りには注意してください。
必要経費に該当しない支出
個人事業主が経費として計上できない支出は、家事費と家事関連費の一部です。
家事費はプライベートで支払った費用(生活費)をいい、家事関連費は公私の支出が一体になっている費用をいいます。
事業や業務上必要な支出は原則として必要経費に該当しますが、業務上で必要な支出であったとしても、公私で使用しているもののうち、プライベートで使用している割合については経費に含めることはできません。
店舗兼住宅の地代や家賃の場合、事業用部分に対応する支出は経費になりますが、生活スペースに該当する部分は対象外となるため、経費の按分計算が必要です。
税務調査では、家事費を経費に含めていると指摘されますし、家事関連費についても、合理的な方法で按分していないと経費の一部が否認されてしまいます。
個人事業主がスーツ代を経費にするための条件
スーツ代を経費として計上することは可能ですが、経費にできるのは一定の条件をクリアした場合に限られます。
スーツの着用が業務上必須であること
個人事業主でも、スーツを着用して業務を行う方もいらっしゃると思いますが、スーツ代を経費にするのは難易度が高いです。
個人事業主の必要経費に該当する支出は、事業や業務上必要なものに限られるため、スーツ代を経費に計上できるかは、業務上でスーツの着用が必要なのかどうかがポイントになります。
過去の裁判では、スーツ代を含めた被服費については個人的な家事消費に該当し、事業で着用しているものであったとしても、普段の生活で身に付ける洋服等は経費として認められないとの判決が下された事例もあります。
そのため仕事でスーツを着用していることだけを理由に、スーツ代を経費とするのは難しいですが、スーツ代が完全に経費計上できないわけではありません。
たとえば営業マンや保険外交員など、スーツの着用が必須な業種であれば、スーツ代は業務上の支出として経費として認められる可能性があります。
個々の状況に応じてスーツ代を経費にできるかは変わってきますので、ご自身の仕事内容とスーツ着用の必要性を加味した上で、経費に含めるか判断しなければなりません。
公私で使用している場合は按分計算が必要
業務上でスーツを常に着用している方でも、仕事用のスーツをプライベートでも着用している場合には按分計算が必要です。
たとえば1週間のうち5日間働いている方であれば、スーツ代の7分の5を経費とする方法もあります。
ただし、プライベートでスーツを着用する時間が長ければ、7分の5の割合で計算する方法が合理的な按分のしかたではないと判断されることもあるため、按分割合の根拠として着用する頻度や時間などを証明することが求められます。
会社員でもスーツ代を経費として控除できる
経費計上は個人事業主や法人の話と思われがちですが、会社員であってもスーツ代を経費にできるケースがあります。
特定支出に該当すれば給与所得者でも経費計上が可能
会社員や公務員など勤務先から給与を得ている人は、給与所得として所得税の計算をすることになりますが、給与所得には「特定支出控除」が存在します。
特定支出控除は、給与所得者が次に該当する特定支出が一定以上あった場合、基準額を超える部分の金額を、給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度です。
特定支出に該当するものとしては、通勤費や職務上の旅費など、対象になる範囲は広いです。
仕事でスーツの着用が必須な会社員であれば、スーツ代は衣服費に該当しますので、個人事業主でなくてもスーツ代を経費として控除できる可能性があります。
<特定支出に該当する主な種類>
- 通勤費
- 職務上の旅費
- 転居費
- 研修費
- 資格取得費
- 帰宅旅費
- 勤務必要経費(65万円が上限)
- 図書費
- 衣服費
- 交際費等
特定支出控除を適用するためには確定申告が必要
給与所得者が特定支出控除を適用する場合、確定申告手続きをしなければなりません。
確定申告は翌年2月16日から3月15日までの1か月間で、住んでいる場所を管轄する税務署に所得税の確定申告書を提出することになります。
また、確定申告書を提出する際は、特定支出に関する明細書や支出した金額を証明する書類の提出または提示が必要になりますので、領収書等は破棄せず保存してください。
サラリーマンがスーツ代を経費にするのは難しい
給与所得者でも、特定支出控除を適用することでスーツ代を経費にできますが、現実的にスーツ代を経費として差し引けるケースは少ないです。
特定支出控除に該当する額は、その年の特定支出の額の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えた部分に限られます。
「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」とは、その年中の給与所得控除額の2分の1であり、年収500万円の給与所得者の場合、基準額は72万円になります。
スーツ代だけで72万円を超えるのは現実的ではありませんし、会社員が実費で仕事関連の費用を支払っているケースは限られますので、会社員がスーツ代を経費にするのは難しいです。
確定申告でスーツ代を経費計上する際のポイント
個人事業主がスーツを必要経費に計上して申告する場合には、税務調査を受けることを想定して準備する必要があります。
領収書は必ず保存しておくこと
税務調査で経費を否認されないために重要となるのは、支出があった事実を証明することです。
税務署は口頭による説明を証拠として認めることはほとんどありませんので、スーツ代を経費とする場合には、支払った領収書などの物的証拠の保存は不可欠です。
領収書を紛失してしまったときは、レシートや関係資料を収集し、客観的に支出があったことを証明できるようにしてください。
スーツの着用が業務上必要であることを証明すること
スーツ代を支払ったことが事実であったとしても、税務署がスーツの着用が業務上必要ではないと判断すれば、経費計上が否認される可能性があります。
仕事で着用しているスーツをプライベートでも着ている場合、全額を経費計上することはできないため、使用割合に応じてスーツ代を按分してください。
また、業務上で必要であったかは、事業内容はもちろんのこと、普段どのような服装等で活動しているかもポイントになります。
税務調査を受けることになったときは、スーツが業務上必要である根拠や、使用頻度等を回答できるように準備を整えましょう。
まとめ
個人事業主が必要経費として含めることができる支出の範囲は意外と広いですが、公私で使用しているものについては按分計算が必要です。
仕事中にスーツを着用している個人事業主であったとしても、スーツの着用が業務上必要であることを説明できなければ、経費計上を否認される可能性があります。
経費計上の判断は難しいため、判断に迷ったときは専門家に相談することをオススメします。
税理士は経費計上の可否はもちろんのこと、経費が否認されないための方法を熟知しています。
税務調査を受けることになってから対策するのでは間に合いませんので、節税対策は申告前から準備することが肝要です。 必要経費に関してお困りのことがあれば【決算直前・無申告おまかせサポート】に、いつでもお問い合わせください。